LifeFixNote|現場と生活の改善メモ

現場改善から学ぶ製造業改善データベース

第二話 私は一覧表を作ろうと思ったわけじゃない ~広辞苑になったSDSとの戦い~

第一話では、私が突然化学物質管理者に任命され、何をすればいいのかも分からず絶望していた話を語った。

今回は、その後どうやって管理業務を進めていったのかを語ろうと思う。

結論から言うと、私は最初から「全化学物質一覧」を作ろうと思っていたわけではない。

むしろ、そんな発想は全くなかったのだ。


まずは自分の職場を知ることから始めた

管理者として何をすればいいのか、正直よく分からなかった。

だから私は、まず自分の職場で何を使っているのかを把握することから始めることにした。

塗料。

シンナー。

硬化剤。

その他の溶剤類。

記憶だけでは漏れが出る。

そこで現場確認と過去の記録を照らし合わせながら、使用している全製品の一覧を作成していった。

当時、私の事業所で扱っていた製品は約40種類ほどあったが、製品一覧を作るだけなら難しい作業ではなかった。

問題はその先であった。


絶望の始まり

製品一覧が完成した時、私はある事実に気付く。

これら全ての製品について…

含有化学物質の抽出。

健康被害リスクの確認。

それを一覧化し、管理しなければならないということ。

その時の感想は一言。

絶望である。

どれだけの時間がかかるのか想像もつかなかった。


SDSという名の広辞苑

次に私はSDSを集め始めることにした。

会社サーバーに登録されているものはデータとして取得し、登録されていないものは取り寄せ、その全てを印刷した。

積み上がった資料を見て思ったこと、それは…

「なんだこれは……」

聞き慣れない専門用語。

難しい文章。

理解できない説明。

まるで取りたくもない資格試験の勉強を無理やりやらされているような気分。

正直嫌だった。

できれば逃げたかった。


でも意外と慣れる

しかし不思議なものだ。

製品ごとのページ数はそれほど多くない。

見るべきポイントさえ分かれば、少しずつ読み進められるようになる。

最初は意味不明だったSDSも、後半になる頃には冷静に読めるようになっていた。

意味を理解しているかどうかは別として(笑)


CAS番号という謎の数字

SDSを読んでいると、CAS番号という数字が頻繁に出てくる。

化学物質管理者講習で聞いていたこともあり、私は比較的すんなり受け入れられた。

簡単に言えば、化学物質ごとに割り振られた世界共通の型番のようなものだ。

実際の運用では毎日使うわけではない。

だが、化学物質を正確に調べる際には非常に便利な存在であった。


なぜ管理濃度に注目したのか

管理濃度という言葉を知った時、私が最初に思ったのは…

「何を基準に決めているんだろう」

ということ。

細かい理論はともかく、現場で考えるなら、管理濃度が小さいほど注意が必要な物質。

そう理解しておけば十分だと思う。

環境測定で使われる重要な指標でもあり、私はここを管理の中心に置くことにした。

なぜなら、化学物質管理者の仕事は化学物質を集計することではない。

健康被害を防ぐことだからだ。

どれだけ立派な一覧表を作っても、職場環境が守られていなければ意味がない。

それでは本末転倒である。


一番大変だったのは最初だった

一覧作成で最も苦労した作業は何か。

答えは簡単だ。

一覧を作る作業そのものである。

全製品の化学物質抽出。

CAS番号の整理。

健康被害区分の確認。

とにかく地道で孤独な作業の毎日。

心が折れそうになったのも一回や二回ではない。

だが、不思議なことに後半は楽になる。

製品が違っても含有物質は意外と似ている。

エチルベンゼン。

発がん性。

「はいはい、また君か…」

そんな感じである(笑)


他事業所から来た一言

ある日、別の事業所の化学物質管理者が来社した。

私が作成していた資料を見て、こう言った。

「Fixerがヤベーやつだってことは分かった」

失礼な話である。

私は真面目に会社の指示に従っていただけだ。

だが、その人は嬉しそうにデータを持ち帰っていった。

今思えば、少しだけ褒め言葉だったのかもしれない。


気付けば一覧表になっていた

振り返ると、私は最初から一覧表を作ろうと思っていたわけではない。

職場で使っている製品を把握したかった。

化学物質を把握したかった。

健康リスクを把握したかった。

一つずつ整理していった結果、

気付けば全化学物質一覧という形になっていたのである。

改善活動というものは、案外そんなものかもしれない。

最初から完成形が見えていることは少ない。

目の前の問題を一つずつ片付けていたら、後から形になっている。

私にとっての全化学物質一覧も、まさにそんな存在だった。


次回予告

全化学物質一覧は完成した。

しかし、ここで新たな問題が発生する。

「この膨大な情報を、どうやって現場へ周知するのか?」

第三話では、健康被害一覧とGHSラベル管理についてお話しようと思う。