
皆さんは、車にはタイヤが付いていて、いつも機嫌よく回ってくれると思い込んでいるのではないだろうか。
確かに普段のタイヤ先輩は優秀である。
アクセルを踏めば前へ進む。
ブレーキを踏めば止まる。
右にハンドルを切れば右を向く。
左にハンドルを切れば左を向く。
実に従順な方である。
しかも文句を言わない。
暑くても言わない。
寒くても言わない。
雨の日も雪の日も言わない。
実に寡黙な方である。
しかし私は知っている。
タイヤ先輩は怒るのである。
しかも、前触れなく。
私は現在の車に5年間乗っている。
中古で購入した時の走行距離は11万km。
現在は22万km。
つまり11万kmの付き合いになる。
東京から大阪までがおよそ500kmと言われているので、200往復以上である。
働きすぎである。
それだけ長い付き合いになるが、タイヤ先輩は基本的に何も言わない。
「今日は少し疲れました」
とも言わない。
「昨日、変なものを踏みました」
とも言わない。
「来週あたり怒ります」
などとは絶対に言わない。
だから怖いのである。
世間はタイヤ先輩を過小評価しているように思う。
車の話になると、エンジンの話をする。
燃費の話もする。
ハイブリッドシステムの話もする。
しかしタイヤの話をしている人は少ない。
タイヤ先輩は唯一地面と接している存在だというのに。
四人で車を支え。
四人で走り。
四人で止まり。
四人で曲がっている。
もっと評価されてもいいと思う。
私はこの車で4回パンクしている。
普通の人がどのくらいパンクするのかは知らない。
しかし私は4回である。
1回目は14万円。
2回目も14万円。
3回目は奮発して26万円。
そして今回、2500円
幸い、予備のタイヤを残しておいたので交換工賃だけで済んだ。
しかし、もし予備が無かったらと思うと今でも震える。
タイヤの空気圧は、こまめに確認した方が良いと言われている。
おそらく車に詳しい人なら、知っていて当然の知識だろう。
しかし実際に確認している人はどのくらいいるのだろうか。
ガソリンスタンドで店員さんに声を掛けられた時。
車検や点検の時。
そのくらいではないだろうか。
私は車に詳しくはない。
でも、私は見ている。
タイヤ先輩が怖いから…
私は今回パンクする二週間前にも確認している。
空気圧は正常だった。
特に異常もなかった。
しかし先日。
タイヤ先輩は突然キレた。
そうなると人は思う。
「結局、空気圧なんて見ても意味ないじゃないか」
と。
私も思った。
実際に思った。
かなり思った。
しかし私はこれからも見る。
なぜなら、今回のような突然のパンクは防げなくても、小さな異変には気付ける可能性があるからだ。
例えば小さな釘。
例えば小さなネジ。
こういう場合、タイヤ先輩は少しずつ不機嫌になる。
その時に空気圧を見る。
いつもより減り量が多い…怒っているのか?
とりあえず、機嫌を直してもらうために空気を補充する。
そして次の日、もう一度見る。
もしまた減っているなら、確実に不機嫌である。
それはもう、何かしらが原因で空気が抜けている証拠だ。
タイヤ先輩からの数少ない、怒りのサインである。
タイヤ先輩は寡黙だ。
基本的に何も言わない。
「今日は少し調子が悪いです」
とも言わない。
「昨日ネジを踏みました」
とも言わない。
「来週あたり怒ります」
などとは絶対に言わない。
だからこちらが気を使うしかない。
空気圧を見る。
溝を見る。
傷がないか見る。
異物が刺さっていないか見る。
常にこちら側が機嫌を伺う。
それでも怒る時は怒る。
だから私は今日も空気圧を見る。
信用しているわけではない。
しかし確認はする。
長い付き合いというのは、そういうものなのかもしれない。
……いや、よく考えたらタイヤ先輩は何度も入れ替わっている。
長い付き合いなのは私の方だった。
ただ一つだけ言わせてほしい。
次に怒る時は、せめて事前に教えてほしい。







